これは私の次男の方の学校の問題なんです。
先生が、女の子に手をつけたの。黙ってなよというのが、黙ってない子供が出て来て、それがだんだん広がっていって、教育委員会に訴えられて、新聞沙汰になってね。
それでその先生は、ホントは辞めさせられるところを、まあ恩恵をこうむったかで、影の力が働いたわけですよ。
その先生を、また一生懸命かばう人がいるの。やっぱり自分の子供を大事にしてもらったからでしょうね。
それで、先生を転校させたから、許せないっていうので、今度自分は、学校へ役員になって出ていって、そういう先生方を芋ずる式に教育委員会に訴えて、辞めさせてやるんだと言って、出てきた人がいたの。
その父兄はね、その学校に対して、何人も子供を出して古株なんですよ。滝沢さんといって、歴史が古いんです。
だから、学校も非常にその方を恐れて、あの人と戦える父兄は誰かしら?ということで、白羽の矢が立ったのが私なんですよ。
鶴田さんなら、何とか頑張れるんじゃないかしらっていうことでね、私頼まれたの。でも私は、心臓が弱いでしょう。
学校側にそうやって頼まれて受けるのはいいけど、冬は心臓が弱くって、風邪でもひけば、ガクンといっちゃうんですからね。
もし出られないときに、向こうに有利な形になってしまったら、申し訳ないでしょう。だから、私はそれをとても心配したんですよ。
そしたら、前の幼稚園の問題があったもんだから、
「おまえが出られない時は、俺が出てやるから、おまえ受けろ」って、主人がこう言ったの。
あぁそう、じゃあ私が、冬出られない時、あんた出てくれる?
「うん、俺が出てあげるから、おまえ受けろよ」って、こういうわけ。それで受けたんですよ。
さあ…そしたらやっぱり、もう…また始まりましてね。村八分みたいに。会に行くと、4、5人の父兄がたまっててね。
とにかく、若いのに生意気だとかね。来たばっかりなのに、子供さん一人しか入れないのに、生意気ね、あの父兄は。
滝沢さん、向こうにまわして、あの人は何するんだか。学校側におべっかい使うためにあんなことやってんのよ。
さんざん悪口言われましてね。それが聞こえるんですよ。お魚屋さんに行っても、八百屋さんに行っても、父兄がいると、私の悪口言ってるんですよ。
しまいには私のお友達までがね、
「あなた、とっても評判が悪いけれども、なんのために、そんな役してるのよ。やめたらいいじゃないの。それともなにか、その役をしてると、あなたに得点があるの? 息子さんがいい成績でももらえるの?」と言うから、
そんなことないわよ。と言ったら、
「そんなことないのに、なにもそこまで頑張って、学校の役、受けてることないじゃない」って、友達にまで言われましたよ。
だから、あっそう、今、私これ口きれないのよね。口きったら迷惑かかるところが出きるんで。だから、今にわかる時が来るから、それまでは、悪いんだけど…。
でもあなたはね、こんなこと言ったらいけないかもしれないけど、私の性格を、わかってくれてると思ってたけれども、やっぱりまだ本当にはわかってもらってなかったのねと言って、
「だってあまりにもあなたの評判が悪いからさ」って、こう言うんですよね。
だから、ああそう、じゃあ、まあいいわと思ってね。
ああ人間なんて、ホントに自分の立場が落ち込んだ時に、〈袖の涙のかかる時、人の心の奥ぞ知らるる〉って言葉がありますけど、
助けてくれる人間っていうのは、ほとんどないですね。そういう体験を私はしました。
それで、結局、影ではですよ。鶴田さん頑張って。あの滝沢の奴、あいつは悪いんだから、
学校の先生を、何人か辞めさせようと思って入り込んで来てるんだから、鶴田さん頑張ってって、こう言うんですよ。
そうすると、そういう父兄はね、向こうに回ると、お世辞を使ってるの。向こうの父兄にね。
まったく、いい加減な人間が多いです。世の中には、ハッキリ言うと。
それでしまいに今度は、そんなに私に頑張って頑張ってと、影で言わないで、
あなた方もそう思ってるんだったら、署名運動をして下さいよって言ったの。
皆さん、滝沢さんが出ること、反対なんでしょって言ったら、「そうだ!」って言う。
だったら、どうですか、皆さんで署名運動していただいて、鶴田さんもそういう考え、学校側、父兄の私達もこう考えと、いうことになれば、少しは本人も反省するでしょうから、署名運動してくださいって言ったら、
「ああ、いいですよ」と、受けたのはいいけど、私のところに持ってくるんですよ。
「鶴田さん、あなたが音頭取りをやってくれ」って言うんです。
私が音頭取りになったら署名運動にならないじゃないのって言ったの。
私が皆に呼びかけて、やらせてるというふうに思わせたら、余計向こうが怒るじゃないのって言ったの。
あんた方、何やってんのよ!って言ってね。
「だけどねぇ、あの人に立ち向かうのは、おっかないしねぇ」って、こうですよ。ホントに戦える人間って少ないですね。
それで私、ああ世の中って頼りにならない人間が多いんだなと、その時も体験して、そう思いました。
それでも私は、とにかく最後まで頑張ってみようと、真剣に取り組みました。
その結果が、結局その滝沢という父兄が悪いことがわかって、もう卒業間際だったんですけども…。
私は、神様にあがったものを、混ぜご飯にしたりして、皆さんに振舞うんですよね。
そうすると、自分が実行委員、役員代表だから、皆さんに電話をかけて、来てもらって、12、3人集まって、お茶会をするわけです。
お饅頭ふかしたりねぇ、混ぜご飯作ったりしてね、ご馳走するわけです。
そしたら今度は、一人の父兄がね、
「鶴田さん、今日はあなたにいいニュースを、私、持っていくわよ」って、こう言うの。
そして、来てから言ったんですよ。
昨日ね、お風呂屋さん行ったら言ってたわよ。
「あの鶴田さんて人ね、今度卒業らしいけど、ああいう父兄、辞めさせるのはおしいわね」って。
ガラっと反対になっちゃって。ね、散々悪口言ってた人達が、
ああいう父兄を辞めさせるのは、おしいわねって言ってくれるようになるんだから。
だから結局、正義は必ず神様が味方します、絶対に。
そういう体験を私はいやというほど、させていただいてますからね。結構強いです、私は。まがったことは嫌いだから、正義に対しては強いです。
だけど、正義の人間ってね、その道中はそうやって、反対の目で見られることが多いんですよ。
あいつは生意気だ。若いのに楯ついてこうだとか、ああだとか、すごく悪い目で見られることが多いんですよ。
どういうもんだか、この争いごとっていうのはね、正しいものは、すごく苦労するように出来てるのね。
少しでも人のお役に立ちたい、神様のお役に立ちたい、世の中のお役に立ちたいという人間は、過去の歴史を通しても、明治維新でもしかり、
いろんな歴史を通しても、そうやって、ホントに中心になって身を捧げる人間というのは、みんな叩かれているんです。どういうものだかね。
だから、お芝居や映画を見ても、必ず中心が苦労してるでしょう。随分悪心の悪い人に叩かれて、難儀するでしょう。そういうしくみが、どうもあるみたいですね。
あぁなるほどな、やっぱりそうかと、世間の波っていうのはこういうものかっていうふうに見ますけどね。自分で体験してるから。
ほーんとにね、苦しいですよ、その時は。逃げ出したいくらい苦しいですよ。
夜も寝られないし、命いくつあっても足らないくらいに、大変な思い、気持ちですよね。
ところが結果において今度そういう答えが出てきた。
PTAの会の人達が、ああいう父兄に辞められたら惜しいとか、あの人だけ、なんとか留められないかねって、
そう言って、お風呂やさんで噂してたってこう言うの。あなたの人気、ホントに凄いわって。
そうしたら今度は床屋さんで、学校の先生が、言ったんだそうです。これは床屋さんが聞かせて下さったんです。
「今度は、鶴田さんっていう父兄に頑張ってもらってね、ホントに我々は助かった」
「我々は傷つかないで、こうやっていられるのも、あの父兄のお陰だな」
「だけど、あれだけ頑張れる父兄は、もう2度と出ないだろう」
「その父兄が今度卒業になっちゃうんだけど、ホントに残念だ」
って、その先生がおっしゃってたって。
私は、ホントに嬉しかったですね。やっぱり正しいことは、いつかはわかる時が来る、人間ってのは、絶対に…。
お話が長くなりましたけど、これから先も、私はこの道は一生懸命、頑張って歩ませて頂こうと思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
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