私が飲み屋をしてるときに、うちへ来るお客様 、佐川さんの奥様がお風呂屋へ行ってたんです。
それで私は、あの佐川さんの奥さんだなと思うから、背中を流しに行ったわけですよ。
そうしましたらね、
「あなたみたいなけがらわしい人に背中なんか流してもらいたくない」
滔々と断られたの。
ああそうですか、すみませんって言って、引き下がって来ました。
でもその第一回目は、はっきり言って、ものすごく自分が惨めになりました。
かつては女中、ねえやとばあやと抱えて過ごした私が、主人の会社が倒産して、一銭も収入が入らなくなって、結局、飲み屋をせざるをえなくなって、そこまで落ち込んだ。
そして、このざまかいなって、もう実に自分が情けなくなりましたよね。もうなんか、人生これで終わりよぐらいに、本当に失望しました。
こっちは好意で、自分のお客様だと思うから、お背中を流しましょうと言ったのにもかかわらず、
あなたみないなけがらわしい人に流してもらいたくないって断られた。
飲み屋っていうのは汚らわしく見られるんですね。それで私はその時、ああ私は情けない仕事をしているんだなあって、一旦は思いました。
それで、うちへ帰ってしばらく考えました。
ああ随分、けがらわしい仕事を私はしてるんだな。でもほかに仕事がないし、主人は仕事をしていない。
収入の道がこれしかなかったから、これをやったんだけれども、そんなに情けない仕事なのかな、この飲み屋さんってのはと。
ジーっと、その飲み屋っていうのをトックリ考えましたよ。
そうやって考えているうちにね、あ、待てよと、あんた、バカだねって自分に言いきかせたの。
なんのことはないじゃない。この世に生まれてきて、やがてはこの世を去るんだ。その一生の中で、私は今、飲み屋をやってるんだ。
私の一生のひとコマじゃない。そういう考え方が生まれてきたんです。
そうすると、私の一生のひとコマを、それが情けない商売したから、人に見さげられたから情けないと思ってたんじゃ、自分はますます落ち込むじゃない。
どう思おうと、所詮、今この時はやがて過ぎ去る時なんだし、生まれて必ず最後は死ぬのよ。生まれてきて死ぬまでの過程の人生って、いろいろあるのよ。
その人生のひとコマがたまたま飲み屋に、そんな軽蔑されるような飲み屋に引きさがったからって、自分をそんなに卑下することないじゃない。
人生なんて、所詮はドラマと思えばいいんじゃない。そういうふうに心を切り替えていっちゃったんです。
そうすると、ああ私、今飲み屋のおかみさんをしてるひとコマなんだな。飲み屋のおかみさんを、いかにすばらしい演技に持っていくか、それを考えればいいんだな。
そう心が決まったらね、ひとつも惨めでなくなってきちゃったんですよ。むしろとっても楽しくなってきたの。
ヨーシッ、飲み屋のおかみさんのこの役を、私は100%に近い演技で、こなしてみましょうと思ったんです。
それでそれにはね、相手が侮辱したからって、私が引き下がって終わったら、私の負けよ。神の子である以上は、お互いに真心を持ってるはず。その真心の琴線に触れるまで私は努力してみましょうと。
そのためには、やっぱり名誉とか見栄とか、そういうものは一切かなぐり捨てて、そして魂の心の豊かな人間にさせていただきましょうと。
そのためには相手がわからないから侮辱するんだから、わかるまで頭をさげりゃあいいじゃないかと、そう思いました。
それで、次にまたお背中流しましょうって言ったら、また断られたの。
4回か5回目にやっと背中を出してくれたの。ああやっと背中出したなと、そのときはうれしかったですね。
それでお背中流してあげて、お世辞言いながら、随分色がお白いですねとか上手に言いながら、流しましてね。
そしたら向こうも今度は、
「暫くさん、お背中流してあげますよ」
ああそうですか、すみません。それで背中出したの。
そしたら背中流しながら、
「暫くさんね、うちの主人は本当に呑んべーでね。最後はお宅に寄ってうちへ帰る。私は安心ですよ。奥さんのような方にお任せしとけば、安心だわ。この頃本当に、奥さんとこういうふうに会ってから、非常にそういう気持ちにさせられた。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
そう言って、向こうからあいさつされたの。
こういうふうに、わかるんですよ、皆さん。お互い神の子であるから。
そうでしょう。お互い神の子になって姿勢を整えれば相手に必ず通じるんです。通じるからこそ向こうが頭を下げた。
ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますって。
そうすると、飲み屋だからとか何屋だからとかって、格好付けに意識を持っていくうちは、まだだめなんです。
そういう格好を離れて、お互いの真心の琴線に触れるだけの姿勢を整えて、初めてそこにすばらしい人間関係ができてくる。
そうじゃない? ね、そういうことを私は積み重ねてきて、この教えが今日あって、あなた方にお話しているわけです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
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